オノマちゃん日記

劇作家オノマリコのブログです。たまに真面目なことも書きます。

だれかに言葉で救われたい夜に

それはわたしじゃないかもしれないけど、今この夜にあなたを励ましたいのはわたしだけなんだから諦めてよ。
本当はちゃんといるんだよ。あなたの背中を叩いて、よくやってるね、とか、何はともあれ生きてるね、とか、好きだよ、とか言ってくれる人。
でもね、出会えないからね。人間って多すぎるよね。多すぎて、誰がどこにいるのか、誰と出会えばいいのかわからないからね。だからあなたは今ひとりで、スマホかパソコンの画面を見ているんでしょう。

"ネットの海で縦横無尽に人を探すより、現実で声をあげて手探りで誰かを捕まえた方が早いってことはわかってるんだ。だけど現実って手も足も出ないんだ。手も足も出ない場所が現実なんだ。自由かもしれないって思える場所がネットの中で、だって操作方法が簡単だからさ、現実の肉体や声は、操作方法が難しいからさ。"

そんな風にあなたは言うかもしれない。

"だれかわたしをスワイプして。わたしをどこかに連れて行って。できたら楽しいところに、こわい人が居なくて、こわいことが起こらない場所に連れて行って。動けないわたしをシュって、マッチを擦るみたいにわたしを指で擦りつけて、そうしてどこかに連れて行って。”

こんな風にも言うかもしれない。

まあでもごめんね。
わたし、不特定多数の人たちを励ます気はないんだ。
わたしが本当に励ましたいのは、わたしの知っている夜の中にいる数人の人たちだけなんだ。
でももしかしたら、そんな言葉にも力があるかもしれないから。
特定のだれかに向けた言葉が、他のだれかを救うこともあるかもしれないから。だからなんとなく、こうやって、書いておく。

ずっと夜の中にいる人。このブログまでたどり着いているかしら。
あなたは幼い頃からわたしの憧れ。今だって、あなたはわたしの憧れ。あなたには意味がわからないかもしれないけれど。
あなたが学校に行かず、外に出なくなった頃。わたしの家に来て、わたしの親と話したり、祖母と話したり、そんな親族巡りをしていた頃。わたしは美しいひとは、大人にうまくなれないし、美しいひとにとって外の世界はきたないんだって理解した。
わたしはきたない空気を吸って生きていけるけど、あなたは美しいからそれができないんだって理解した。
わたしは自分の凡人性を呪ったりもした。あなたのようになりたかった。
あなたが年をとろうと、あなたの体型がどう変わろうと、お母さんに振り向いて欲しくて大きな声で泣いていようと。あなたは美しくて、あなたは憧れ。わたしの憧れ。
どんな風に生きていたって、一生を夜のうちに終えたって、あなたの美しさを幼いわたしは受け取ったし、これからだって受け取り続ける。